アメリカの名門現代音楽レーベル〈Nonesuch〉から、Steve Reichによる代表作『Four Organs / Phase Patterns』が再発。
本作は、1960年代後半にReichが確立したミニマル・ミュージックの方法論を、最も純度の高いかたちで示した作品群です。テープ音楽やフェイズ・シフティングの実験を経て、「同一のパターンを人力でズラしていく」という発想に到達した時期の成果であり、音楽が“展開するもの”ではなく、“変化し続ける状態”として存在することを明確に提示しています。

タイトル曲「Four Organs」では、4台の電子オルガンとマラカスという極端に限定された編成が用いられ、和音が持続されながら徐々に引き延ばされていく構造が、聴覚の知覚そのものを揺さぶります。一方「Phase Patterns」は、複数の電子オルガンによる反復フレーズが微細に位相をずらしながら重なり合い、機械的でありながらも有機的な揺らぎを生み出します。ここでは旋律や感情表現よりも、時間・反復・ズレといった要素そのものが音楽の主役となっています。アフリカ音楽やバリのガムラン、初期電子音楽からの影響を背景に持ちながらも、本作で提示される音響は特定の文化や場所に回収されることなく、抽象化されたリズムと響きとして空間に立ち上がります。集中して聴くことで時間感覚が拡張される一方、環境として流していても成立するその佇まいは、後のアンビエントや実験音楽、さらには電子音楽全般に与えた影響の大きさを静かに物語っています。ミニマル・ミュージックという言葉が持つ構造的な厳しさと、身体感覚に訴えかける反復の快楽が同時に存在する本作は、Reichの思想と方法が最も鮮明に刻まれた重要作であり、今なお新鮮な聴取体験をもたらす一枚です。［Hタカハシ］