Francis HarrisとGabe Hedrickによるユニット Aris Kind による『Now Claims My Timid Heart』は、カフカ、W.G.ゼーバルト、ピンチョンといった作家たちの文学世界から触発された、静かな往復書簡のように内に沈み込む実験的なサウンドスケープが広がる作品です。果てしない細部の反復が、加速しながら隠し、またそっと姿を見せ、やがて複雑な情景を立ち上げていく。そうした感触は、カフカが『フェリーツェへの手紙』の中で表現した、親密でありながらどこか陰影を帯びた語り口にも通じています。Aris Kind は本作で、ポスト構造主義ポップと呼ばれる音楽観のもと、親密さと孤独が静かに共存する、密閉された音の空間を作り上げています。サンプルやループを重ね、さらにそれらをコンボリューション・リバーブへ通すことで、楽曲それぞれに響きの異なる「密室」のような音響空間を構築。それはまるで、普段は決して踏み入れられない世界を、ひそやかに録音してきたフィールドレコーディングのようでもあり、その奥で微かに揺らめく静謐さが、アンビエント・ダブとしての深い魅力をそっと呼び覚ましていきます。[GRRRDEN]